盛岡西ロータリークラブ会長コラム(23年7月~24年6月)

第36回例会 会長あいさつ「女性初の○○と言っているのは日本だけ?」(2024年4月11日)

今年から再び盛岡西ロータリークラブの会長となりました。 会長挨拶をホームぺージでもご紹介いたします。

4月から、NHKの新しい朝ドラが始まりました。皆さんご覧になっていますか。タイトルの「虎と翼」は、中国の思想家の韓非子の言葉で「鬼に金棒」と同じく「強い上にもさらに強さが加わる」の意味なんだそうです。主人公の猪爪寅子は、1940年に日本で初めて女性として弁護士裁判官、家庭裁判所長となった三淵嘉子(みぶちよしこ)さんがモデルだそうです。三淵さんの他に、弁護士になった女性に中田正子さんと久米愛さんがいて、この3人が日本で女性初の弁護士となりました。

ところで、今年度4月から2年間、わが日本弁護士連合会(日弁連)会長は、東京弁護士会の渕上玲子弁護士になりました。余談になりますが、渕上先生は、37年前に私が司法修習生だった時に修習幹事でしたので、お世話になりました。その渕上弁護士が新会長に決まって以来、「日弁連初の女性会長」「女性初の日弁連会長」という見出しや記事が付いて回ります。朝ドラの主人公が「女性初の弁護士」として誕生してから実に84年も経っています。ちなみに渕上弁護士は、2017年に「女性初の東京弁護士会会長」もされています。

私は、2000年に入ってから、陪審員やロースクールの見学のためニューヨーク、ラスベガス、ハワイなどに行き、取調べの可視化見学としてオーストラリアのシドニーに行きました。20年ちょっと前のことですが、私たちに応対した裁判官や弁護士の半数は女性でした。2015年に英国ロンドンで男子だけ収容している刑務所を見学しましたが、多くの女性刑務官が受刑者と一緒に働いていました。2019年に第二東京弁護士会とパリ弁護士会の交流会に参加しましたが、パリ弁護士会会長は女性でしたし、数十人の弁護士の過半数は女性でした。世界では女性首相が誕生していますし、イギリスの日本大使館大使も女性です。政府は男女参画を推し進めようとしながら、国会議員や内閣の女性比は世界の最底辺のままになっています。海外の多くの国では、あらゆる分野で男性も女性も対等にそれぞれのポジションを占めているので、いまさらトップ人事で「初の女性○○」という表現は使われないと思います。

視点を変えて、「夫婦同姓制度」が女性の社会進出を阻んでいないか、あるいは少子化の原因になっていないかということを考えてみます。

夫婦同姓には歴史があります。かつて徳川時代には、農民・町民には名字の使用が許されていませんでした。明治3年9月19日太政官布告で、平民に氏(姓)の使用が許されることになり、明治8年2月13日の太政官布告では、氏(姓)の使用が義務化されました。これは徴兵の兵籍調べの必要があったからだと言われています。明治9年3月17日太政官指令では、妻の氏は「所生の氏」すなわち実家の氏を用いることとされ、夫婦別氏制を国民すべてに適用することにしました。明治31年に旧民法が成立しました。その際、「家」の制度を導入し、夫婦は家を同じくすることにより同じ氏(姓)を称することとされ、夫婦同氏制となりました。連ドラ「虎に翼」では、家制度の下で「妻は無能力者」、「妻の財産は夫が管理する」「夫が親権者となる」という旧民法の条文に主人公達が疑問を持ち始め、弁護士になって闘おうとしているところです。

戦後改正された民法では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(第750条)として、「家」制度を廃止して、夫婦の氏(姓)は両性の合意で定めることに改めました。ところが、厚生労働省が取りまとめた「人口動態統計」によれば、夫の姓を選択する夫婦の割合は、平成7年から12年まで97%台、そこから平成27年まで96%台、令和元年が95.5%となっています。皆さんが結婚された昭和の時代は、戦前の「家」制度が色濃く残っていて、結婚すれば夫の姓に従うのが当然として、夫の姓を選択する割合が高かったはずです。私も結婚すれば自分の姓になると疑問を持っていませんでしたし、同級生には家業を継ぐために婿入りしてくれる男性を探してずっと独身でいる人もいます。

しかし、意識はだんだん変わってきます。令和3年の「家族の法制に関する世論調査」の結果では、夫婦の名字の在り方に関する設問で、「現在の制度である夫婦同姓を維持した方がいい」27.0%、「現在の制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」42.2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」28.9%となりました。つまり、夫婦別姓を求める声が夫婦同姓の維持を超えました。

4月8日付朝日新聞社説(司法社説担当 井田香奈子氏)の記事に、「独身者が積極的に結婚したいと思わない理由」として、「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」が、20代30代の女性の4分の1、40代から60代女性の3分の1も存在することを指摘していました。つまり、結婚しても結婚前の姓を名乗ることができるのであれば、「結婚したいと思う」という可能性がある人が独身者の25%から30%位いるといういうことになります。井田さんは、現在の夫婦同姓制度では、「姓を変えることの不便さ、不利益さを承知で不本意ながら夫の姓に変えるか、法律婚をしないかの選択を迫られる女性の立場」を懸念し、「結婚の門は、国会・政府の責任で広げられる問題だ。まして二人の関係を公的に認め、税などの優遇も伴うのは社会の基本制度だ。相当数の人を入り口で押し返すことなど、許される時期はとうに過ぎている」と指摘しています。

法務省のホームページには、「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)というコンテンツがあり、統計資料も入れてかなりの頁数で解説しています。その記事中「よくある質問」のQ12「外国における夫婦の氏に関する制度はどうなっていますか」の答えとして、平成22年の調査結果から、「法務省が把握する限りでは、結婚後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないとする制度を採用している国は、日本だけです」とハッキリ書かれています。

たしかに、多くの企業でも、結婚後に旧姓を「通称使用」として認めるところが増えていますが、戸籍姓を使用しなければならない場面は多く、根本的な解決策ではありません。事実上95%以上夫の姓となる我が国の現状は、女性の心理的な抵抗を招き、結婚や、結婚後の社会参画を阻んでいる原因になっているのではないでしょうか。

女性人事でいつまでも「初の女性○○」と書かれるのは、マスコミも世間も女性がその地位に就くのが珍しいと思い込んでいるからなのでしょう。わが国も早く「初の女性○○」「女性初の○○」という表記がされない社会を目指す必要がありそうです。

これで会長挨拶を終わります。

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