解決事例
時効完成後に返済した場合でも時効援用が認められたケース
概要
依頼者(70代男性)は、平成18年に債権者との間で、約50万円の債務を96回の分割で返済することに合意しました(最終期限は平成26年)。その後、何度か返済をしましたが、平成20年頃に東京の弁護士へ債務整理を依頼し、過払金によって債務は完済したと思っていたため、途中から返済をストップしていました。
それ以降、債権者から請求等はなく15年以上が経過しましたが、令和6年になって突然、法的手続移行の通知が届きました。依頼者は、上記債務のことをすでに忘れていましたが、「法的手続」という文言に不安を抱き、急ぎ債権者へ電話しました。
電話に出た担当者からは、分割でも支払う義務があると言われたため、依頼者は月1万円程度なら支払えると答え、その後1万円を振り込みました。本来であればすでに時効ですが、依頼者には法的知識がなく、言われるままに支払いをしてしまいました。
ところが、それから数日後に裁判所から訴状が届きました。訴状の日付からすると、依頼者が電話をした時点で、債権者はすでに訴訟提起済みでしたが、電話ではそのような話は一切ありませんでした。
以上のような経緯で当事務所に相談があり、訴訟対応を受任することとなりました。
当事務所の対応
まず、最終期限からすでに10年以上(時効期間は5年)が経過していることを理由に、消滅時効の援用を主張し、請求棄却を求める答弁書を提出しました。
債権者側は、時効完成後に債務承認(返済)がなされているため、信義則により時効援用は許されないとの主張をしてきましたが、本件の事情の下では、時効援用が信義則に反するとはいえず、時効援用が認められるべきであるとの再反論を行いました。
結果
裁判所も、本件では時効援用が認められると判断し、依頼者の債務は時効によって消滅しているから、債権者の請求を棄却する旨の判決となりました。その後、債権者から控訴はなく、棄却判決が確定しました。
判決の概要は以下のとおりです(原告=債権者、被告=依頼者)。
1 原告が法的手続移行の通知を送付した日付と、訴訟提起の日付が極めて近接していることからすると、通知を送付した時点で訴訟提起はすでに準備済みだったことが推認できる。
2 原告は、債権回収の目的で訴えを提起する以上、その手続中で被告と交渉することは十分に可能であり、それが訴訟当事者の行動として期待されるところ、長期にわたって接触をしてこなかったにもかかわらず、訴訟提起とタイミングを合わせて通知を送付し、被告と接触を図ることに特段の必要性、合理性は見出しがたい。
そうすると、このような交渉に強いて独自の意味合いを求めるのであれば、それは、債権の純然たる存否確認や弁済に関する和解交渉のためというよりは、もっぱら訴訟進行を有利に進める目的で、被告から予め債務承認の言質を取るなどの意図をもって行ったものと解さざるを得ない。
3 これまで、被告は、原告に対し、長期間にわたり支払義務があることを前提とした態度を示したことはなく、通知を受けて電話した際の会話以外には、返済義務が窺われるような言動は一切なかった。
そうすると、仮に被告の発言や1万円の弁済が債務承認の態度と捉えることができたとしても、それ自体が原告の目論見の延長線上の事象ということができるから、事後に被告が態度を翻したとしても、原告にとっては元々予期された範囲内の出来事だといえる。
さらに、原告が集金代行業者であって金融業務に詳しく、時効制度も当然に知悉しているであろうことを合わせ考えると、かかる被告の態度をもって原告の信頼を損ねるものとはならず、原告には、被告が消滅時効を援用しないと信頼することが相当でないと解される特段の事情があると認められる。
4 そうすると、被告の時効援用が信義則に反するとはいえないから、被告の消滅時効の援用権は喪失していない。
5 したがって、本件債権は被告の時効援用により消滅しているから、被告に弁済義務は認められず、原告の請求は理由がない。
コメント
すでに時効が完成している債務であっても、債権者から督促の通知や電話が来ることはよくあります。この時、一部でも支払ってしまった場合はもちろん、口頭で支払う意思を示しただけでも、その後の時効援用が制限され、全額の支払いを余儀なくされる可能性があります。
本件では、例外的に時効援用が許される場合であることを主張し、裁判所にも認めてもらえましたが、全てのケースにおいて同じ結論になるとは限りません。特に、本件は、法的手続移行の通知と訴訟提起がほぼ同時に行われたという点が特徴であり、判決でもこの事情が重視されていますので、この点が異なる事案では判断が変わることも考えられます。
長年支払っていなかった債務について督促等が来た場合には、自分の判断だけで対応せず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
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